第164回芥川賞候補作にあがった「小隊」
最高の作品でした。
自衛隊用語、軍事用語をふんだんにあしらい
一切脚注が存在しない一般人を置き去りにするスタイルの小説!
陸上自衛隊若手幹部自衛官に向けて書かれた傑作!
読めば読むほどのめり込み時間を忘れて一瞬で読み終わってしまった。
決して番人受けする小説ではないと思いますが、芥川賞候補作品としてあがったのはとてもリアルに描写されているからでしょう。
自衛隊あるあるのオンパレードでニヤニヤハラハラしながら読めました。
150Pぐらいの小説ですが、本当に一切脚注がないので元自衛官か現役自衛官で
しかも陸上自衛隊の幹部でないとスッと入ってこないと思います笑
一つ一つ意味を調べて読むと結構時間がかかるかもしれないですね。
しかし、まぁ本当に心情から行動から全てがリアルなんですよ。
臭いまで思い出せれるぐらいリアル。
読み終わったあと、現役幹部自衛官の同期に勧めたら彼はもう読んでいました。
彼は「あれほど共感できる小説はない!」「まぁ実戦経験はないけど笑」と言っていました笑
ぜひ皆さんに読んで欲しいのでちょっとだけ解説をしながら書評をしたいと思います!
あらすじ
北海道にロシア軍が上陸、日本は第二次世界大戦後初の「地上戦」を経験することになった。
陸上自衛隊の安達3尉は、自らの小隊を率い、静かに忍び寄ってくるロシア軍と対峙する。
そして、ついに戦端が開かれた…
小隊について
主人公は一般大学を卒業して、幹部自衛官になった安達3尉
ストレートなら年齢は25ぐらいでしょうか。
3尉とは旧軍でいう少尉
幹部の中では階級が一番下のぺーぺーです。
役職は小銃小隊長
小銃小隊長は現場(戦場)の最前線に立つ指揮官
また部下が30名ほど。
部下と行っても古参陸曹から下っ端陸士まで含めた幅広い年齢層
古参陸曹に助けられながら小隊を指揮している「若手幹部自衛官」という立場
戦場は北海道釧路
敵はロシア軍1コ旅団…
任 務
第5戦車第1中隊の配属を受けた第27戦闘団は、2コ中隊を並列、1コ中隊を重畳に配置して△104〜△114に至る間を戦闘地域として、字保別一帯の間に陣地防御し、ある期間まで敵の侵攻を阻止し、第5旅団の進出を援護
自衛官としてはお馴染みの任務ですが、一般の方からすると意味不明ではないでしょうか…
イメージ的にはこんな感じです
この小さな範囲で物語が進んでいきます。
読む際はこの位置関係と地形がわかれば読み進められると思いますよ!
この小説は戦争に至った経緯が一切書かれておらず、わかりません。
もちろん、主人公の安達3尉も知りません。
ロシア軍もなんのために戦っているかよくわからない感じ。
このモヤモヤとしたなぜ、なんのために、どうして戦わないといけないのか
わからない状態で読者と安達3尉は戦争に突入します。
わかっているのは「政府が平和的な解決に向けて外交努力を続けている」という情報のみ。
では安達3尉は一体なにに意味を見出し戦うのでしょうか。
この見出した先が幹部自衛官なら「なるほど」と思わざるを得ない内容です。
「国のため」「家族のため」
そんな綺麗事ではない戦場のリアル、幹部のリアルを突いた答えです。
これはぜひ、小説を読んで確認してください。
主人公が若手幹部自衛官だからこそ導き出せた答えかもしれません。
ちなみに、この小説はランボー的なヒーローや英雄は一切出てきません。
みんな臆病者です。
砲迫に怯え、遊撃(ゲリラ)に怯え、空爆に怯え。
我の勝ち目であった圧倒的陣地が蹂躙される絶望感
現戦力で対処せよ!という理不尽、不条理
だれひとりと名誉や誇りを口にすることはない。
元陸上自衛官の著者がリアリティーを追求した素晴らしい作品です。
文章の一文にこんなものがあります。
「機関銃手はいるか」
「いないです。MOS(特技)がないです」
「どうでもいい。とにかく撃たせろ。」
「小隊」 砂川文次 より引用
MOS(特技)とは自衛隊の免許みたいなもの。
MOSは細かく分けてあり、機関銃を撃つには機関銃のMOSが必要なのです。
戦場でもMOSがあるかないかを気にするところ
MOSがないから撃てないと言うところ
これは強烈に自衛隊を皮肉ってますね。
ルールに囚われ自分で考えて動くことができない。
非常事態であっても臨機応変に対応できない。
痛烈な自衛隊への皮肉を感じます。
打ち殻薬莢1つ無くしただけで大問題になり何百人と捜索に動員する自衛隊ですから
MOSがない人間が機関銃を撃つなんて「普通」はありえない。
非常事態なのに自衛隊の「普通」から脱し得ない描写がリアルですね。
また小説の中で「コーラが飲みたい」という一文が何回も出てきます。
なぜかコーラが飲みたくなるのです。これは本当。
ペプシでもなく、ファンタでもなく、三ツ矢サイダーでもなく
「コーラ」なんです。
なぜなんでしょうね?今だに謎です。
超絶厳しい訓練が終わった後に飲むコーラは、脳天を撃ち抜かれたように全身に染み渡り生きている喜びを感じます。圧倒的な美味しさなんです。
自衛官とコーラは切っても切れない関係にあるのです。
まとめ
こんなにもリアルに自衛官の葛藤を書いた小説はありません。
だいたいは特殊部隊や将軍様を題材にした小説が多いです。
そうゆう人たちは凄すぎて共感はあまりできません。為にはなりますが。
若手幹部を主人公にし、生々しいまでに心情を描いたこの小説は傑作です。
会議中に雑念ばっかりなところとか本当にリアル笑
ぜひ、芥川賞候補作「小隊」砂川文次 読んでください!!
最後に主人公が何に意味を見出したか(私的な)答えを記載していますので気になる方は見てください!
超絶怒涛のオススメ小説です!
答え
階級による義務感
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