2022年5月23日毎日新聞に掲載されていた。
金沢大学生寮が廃止の危機 築50年以上、月1万円…安全か安価か
旧制第四高等学校や旧金沢医科大など北陸地方の高等教育の頂をルーツに持つ金沢大。その学生の生活を格安の寄宿料で支え、濃密な人間関係を築く場となっている2カ所の学生寮が危機を迎えている。老朽化などを理由に今年度末で廃止すると大学が決定したのだ。これに対し、寮生らは廃止撤回を求める署名活動を大学構内外で展開する。「コロナ禍の中、安価に生活できる寮を廃止しないで」。切実な学生の声は届くだろうか。
廃止されるのは男子寮の「泉学寮」(金沢市野町5、定員168人)と女子寮の「白梅寮」(同市泉野町2、同140人)の2施設。5月現在、泉学寮には65人、白梅寮には53人がそれぞれ入居する。大学は2019年2月に2寮の廃止を決定し、同月に入居する寮生らに通知した。大学によると、白梅寮は1964年、泉学寮は翌65年の完成でともに築50年以上たっており、老朽化が深刻化。泉学寮は09年に耐震補強を施したが、その後も雨漏りなどで傷みが進行しており、同大の片岡邦重・学長補佐(教育改革・学修支援担当)は「寮生の安全が保証しにくい状況だ」と説明する。
毎日新聞より引用 https://mainichi.jp/articles/20220520/k00/00m/040/126000c
金沢大学は2017年3月に66年にも及ぶ伝統ある北溟寮(ほくめいりょう)を廃寮した。
今回の泉学寮と白梅寮も寮生の必死の抗議活動の甲斐虚しく予定通り令和5年に廃寮するだろう。
私も伝統ある自治寮出身であり今回の決定は虚しく思う。
なぜ学生はボロボロの建物に住むのか?
寮には経済的に苦しい学生が入寮してくる。
はっきり言って最初は仕方がないから入るのだ。
入ってみると心地が良い、住めば都なのだ。
私は築50年以上の寮に住んでいたが、とてもボロボロだった。
雨漏りする部屋や壁紙が剥がれ廃墟のような部屋、廊下には昆虫たちが闊歩するとても綺麗とは言えない状況
しかし、寮生はそれすら受け入れ笑い話にする。
なぜ学生はボロボロの建物に住むのか。
それは寮費の安さもあるだろう。泉学寮は寄宿料700円と破格の安さ。
光熱費等もろもろ合わせても1万円で収まる。
現代では考えられない安さで生活できるのだ。
多少、ボロボロでも文句は言わない。
私の寮は月額9千円だったが、自分が寮長の時に1000円値上げして1万円にした。
理由は「運営費の圧迫」
風呂を沸かすための重油代の高騰やインターネット代、また寮生の減少から値上げせざる追えなかった。
上級生に対する根回しがとても大変だったのを覚えている。
大学寮にはなんとも言えぬ一体感がある。
その一体感が寮費の安さ以上に寮の魅力なのだ。
先輩方が残してきた寮を次の世代に残していかなければならない。
その一体感は伝統ある寮だからこそ培われていく。
寮生の絆は社会人になっても続いていくのだ。
自治寮の伝統を引き継ぐ者たち
仕方なく寮に入った者たちでも1ヶ月もすると寮の伝統に染まっていく。
わけのわからぬルールやしきたりも住んでいると苦ではなくなる。
そして、寮の伝統を引き継いでいこうと無意識に思う。
寮には歴代の先輩たちが残してきた行事や習わしが息づいている。
愚直にも寮生たちはその伝統を守ってきている。
追い出しコンパでは池に飛び込む
歴代先輩が残していった謎の一発芸
歌詞しか残っていない寮歌
スポーツ大会という名の飲み会
etc…
楽しい思い出があると伝統を守っていこうと思う。
私が寮にいた頃、地域の伝統あるお祭りに参加するかしないか議論になったことがある。
理由は「寮からのお祭り参加者が激減したこと」
昔の寮はお祭り参加が義務であったが、時代の流れもあって希望者だけの参加になっていた。
はたして、自分の代で簡単に不参加にして良いのだろうか?連続出場をここで止めてしまっていいのか?と悩んだ。
私は、寮生以外の友人に声をかけ参加してもらうことで危機を救うことができた。
その後、しっかり寮で議論をし伝統を守っていく結論に至り、在寮中に1回はお祭りに参加することが義務になった。
自治寮には委員会があり
寮長をトップに様々な役員を選抜し寮を運営している。
会計役員も寮生から選抜され監査も存在し監査が実施される。
いわば寮は小さな社会の縮図のようなところなのだ。
輪を乱す者がいれば寮会が開かれ寮を追い出される。
普通にしていれば追い出されることはないが、実際に追い出された人もいる。
寮の最大の醍醐味は人間関係だ。
私の寮はクソの吹き溜まりと揶揄されていた場所で、クセスゴな人たちがたくさんいた。
寮に入っていなければ絶対に関わっていない人たちばかりだった。
先輩後輩問わず、濃密な人間関係を構築できる寮は最高の場所であった。
今でも彼らと連絡を取り、年に数回は会っている。
寮生以外にとっては目の上のたんこぶ
寮生の目線から見ればいいことばかりだが、寮生以外から見ると目の上のたんこぶでしかない。
実際に自治寮として寮の運営はしているものの、寮そのものの管理は「学校側」がしているのが現状だ。
現に、金沢大学の寮も建物の修理や管理人の人件費など2寮で年間600万円の維持費がかかっているという。
1寮あたり300万だが、これを寮生で賄うのは難しいだろう。
延命措置としての耐震工事にも莫大なお金がかかる。
学校側としても、大学の運営費が減らされ大学経営そのものが良い状態ではない中で研究や教育にお金をかけるため廃寮を決断したのだろう。
私の寮も一時期、廃寮の話題が持ち上がり学校側と対峙して抗議をしたことがある。
やはり、理由は金沢大学と同じで老朽化や維持費の問題であった。
新しい寮の図面を見せてもらったが、もはや学生マンションとなっており寮費は5万と寮の良さはどこにもなくなっていた。
濃密な人間関係もなく、一体感もなく、面白みのない寮の姿だった。
しかも、寮費がバカ高い。
猛抗議の末、耐震工事をして寮は存続する方向となり現在もその寮は現存している。
学校側が譲歩した形となって収束した。
自治寮の今後
歴史ある自治寮は今後ますます減っていくだろう。
その理由の一つに、寮生の減少があげられる。
金沢大学の泉学寮は定員168名に対し65名
白梅寮は定員140名に対し53名しかいない。
学校としては年々減っていく寮生の数を見て、廃寮が妥当と判断したのかもしれない。
現に、私がいた寮も定員の50〜60%ほどしか埋まっていなかった。
経済的に困窮している家庭が少なくなったとは思えないが、今の若者には寮という異空間が認められにくいのだろう。
令和にあるまじき昭和の匂いが漂う空間である。
伝統というルールやしきたりが息づく「めんどうくさい」ところでもある。
その不自由さがより自由を際立たせ、良い経験になるのだが今の若い子達には合わないのだろう。
題名にもある「安全か安価か」というそれだけでは切り捨てられない理由が寮生にはあるのです。
歴史ある自治寮の寮生諸君よ!
今が危急存亡のときぞ!
立ち上がれ〜!!!
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